昨今若いプロゴルファーの目覚ましい活躍がメディアで多く取り上げられています。特に女子プロゴルファーに至っては世代ごとに“○○世代”とネーミングされるように、同年代に複数の有望選手がいるのが当たり前となっています。
また、男子ツアーにおいても中島啓太選手、河本力選手、そして蝉川泰果選手などプロ入り前から活躍するのが定番になりつつあります。
さて、そんな若手達もジュニアゴルファー時代を過ごしてきているわけですが、子育てというのは多くの場合は一生のうちに1、2回しかしないもの。何が正解か分からないというのが大半の親の気持ちではないでしょうか。ということで今回はジュニアゴルファーがどのようにして育っていくのかについてTPI JuniorコーチLv3のアッキー永井が書いてみたいと思います。
プロスポーツとして興行が比較的成立しているゴルフですが学校の体育教育には組み込まれていませんから、「子どもが勝手に始める」ということはまず無いのが現状です。地域によってはスナッグゴルフが取り入れられていることもあるようですが、そういったケースは極めて稀でしょう。
私はゴルフの指導をする傍らジュニアゴルファーの留学支援なる仕事もしていて、その中で「ゴルフを始めたキッカケは?」というアンケートを行っています。
そしてその答えとしてダントツの1位は「親族に薦められて」です。
おじいちゃん、お父さん、お母さんのいずれかが既にゴルフをしていて、練習場に連れて行ってもらったというのがお決まりのパターンです。とは言え、やはり子どもというのは好奇心の生き物ですから、楽しそう、面白そうというのが行動の基本的な原動力です。そういった観点ではテレビでゴルフ中継を見みることや、他の球技から始めるのだって良いと思います。
この質問には2つの答えが存在します。
まずゴールがプロになることなのであれば、遅くとも6歳までに始めるのが良いです。ゴールがあくまでアクティビティとしてということならいつ始めても遅くはありません。ここでは特に前者のケース、なぜ6歳までに始めた方が良いかについて少し詳しくお話しましょう。
子どもはまっさらな状態の脳を持ってこの世界に生まれます。生き残りをかけて大急ぎで情報を収集して自分を世界へと適応させていきます。視覚、聴覚、嗅覚、体性感覚など全てのセンサーを総動員します。肉体も日々成長します。脳は「必要なものは維持、不要なものは廃棄」※という習性を持っていてある程度の期間使わない機能があるとその回路を自動的に廃棄してしまいます。そのため、本格的に運動能力を向上させ始める頃にはゴルフをしておいた方が後々有利であるとされています。
※Brain Pruning / Synapse Pruning(シナプス刈り込み現象)と呼ばれています。
結論を先に言ってしまえば、それぞれの家庭にとって無理のない範囲でサポートをするということに尽きるのではないでしょうか。世界最強のジュニアゴルファーを目指すということであれば、出来ること全てを出来たら理想だとは思いますが中々そうもいきませんから、ある程度の制約の中でいかに効果を最大化できるかが鍵となります。
そして何よりゴルフというのは練習もコースに出るにも移動を伴いますので、基本的には常に親と行動を共にすることになります。平日の夜、仕事の後に親が練習場へ連れて行く。週末には午後ハーフを親と一緒にプレーする。
時折18Hプレーしたり、年に数回は競技に出してみる。そんなところから徐々に子どもにやる気スイッチが入って加速度的に上達することもあります。そうすると今度は親までやる気スイッチが入って、むしろ親が前のめりに。なんてこともよく見かける流れですが、できれば子どもの主体性を尊重しつつ道を提示してあげるのが良いのではないでしょうか。全く提示しないとそれはそれで子どもは発想がまだ乏しいですから、進むべき方向が分からなくなってしまうことがあります。ですから、道は何通りか示しつつ進む方向やそのスピードは子ども本人に任せておく、というのがこれまでの経験上では実を結ぶように思います。
このフレーズはジュニアスポーツ育成論を学んでいく上で、どんなスポーツ種目の場合でも出てくるのではないでしょうか。ある1つの種目に特化していく以前に、アスリートであれという考え方です。
ゴルフスイングを例えにすると、棒状のものを力強く振るという点では野球に近いものがあります。また、面(フェース)の向きを管理するという点ではテニスやバドミントンに近いものがあります。大事なショットの前の集中力はダーツやアーチェリーのそれとほぼ同じと言ってよいでしょう。このように、スポーツに必要とされる運動能力や本質的スキルというのは共通であることが多く、ゴルフに特化するからといって運動音痴であっていいはずが無いのです。事実、現在PGAツアーで活躍している欧米の選手の多くは小さい頃から何種類ものスポーツを経験していることが多いようです。ですから、子ども本人がいつか「プロゴルファーになりたい」なんて言ったとき、せめてそれが出来るだけの土台を用意してあげるには2、3種目のスポーツ経験をさせてあげることが大事です。
最近は子ども達だけで外でボール遊びをしたりできる環境が減っていることが嘆かれているように、日本全体としては運動能力は年々低下しているとされています。ゆえに、意識的に運動をさせている家庭とそうでない家庭では大きな差が開いているのかもしれませんね。
私もゴルフを愛してやまないゴルフ愛好家の一人、できればジュニアにはスポーツを楽しむというところを忘れずにいろんなことのバランスの中で伸び伸びとやってほしいなと願うばかりです。
文:ライター アッキー永井